このページでは当会役員で現役薬剤師、大学でも教鞭をとる【どらごんPh.D】こと、清水竜氏による専門家ならではの解説を掲載します。過去に会報誌でもご紹介したお薬を中心に説明します。
なお、宣伝のように見えますが、患者の立場でのご案内です。決してメーカーから資金提供を受けているわけではありません。また、ここに書いてある薬が、必ずしも今のあなたの状態に合致する薬とは限りませんので、実際に処方されるか否かは主治医の判断に従っていただきますよう、よろしくお願い申し上げます。
医日翻訳家 博士(薬学) 清水 竜
注:医日翻訳家とは、医療用語という外国語を日本語に翻訳する人のこと。もちろん私の造語です。
神経系に作用する痛みの薬のご紹介
●オピオイド系(麻薬そのもの、または同じ作用をして痛みを改善)
非麻薬では、トラマール、トラムセット配合錠、ノルスパンテープなど、麻薬ではモルヒネ塩酸塩、コデインリン酸塩、フェンタニルなどがあります。
●抗うつ薬(うつと痛みに関連がある??)
全ての薬に効果があると考えられますが、サインバルタは最近「糖尿病性神経障害に伴う疼痛」で適応をとりました。他にはトリプタノールなどがよく使われているようです。
●抗てんかん薬(神経の異常興奮を抑えるから、痛みも抑える??)
テグレトールに「三叉神経痛」の適応があります。他には、ガバペン、デパケン、リボトリールなどが良く使われているようです。
トラムセット配合錠
まず、配合錠ってなんぞや?と思う方が多いのではないでしょうか。数年前からの風潮なのですが、二種類以上の有効成分を含む薬には「配合」という言葉を医薬品に付けなければならないという取り決めがなされました。ですから、風邪薬のPL顆粒とか、ビタミン剤のシナールなんていう有名どころの薬も、「PL配合顆粒」「シナール配合錠」なんていう風に表記しなければならなくなっちゃったんです。めんどくさいんですが、それが決まりなんでしょうがないんです(苦笑)。ですので、トラムセット配合錠も、もちろん複数の成分が配合されています。有効成分はアセトアミノフェンとトラマドールです。
前者のアセトアミノフェンは、単独成分では「カロナール」や「アンヒバ」などの商品名で広く使われている解熱鎮痛剤です。非常に古くから使われていて安全性も高いため、インフルエンザの高熱の時に小児に対して処方がOKな唯一のお薬でもあります。それだけ古い薬なら、さぞかしどんな風に効くのかが分かっていてよさそうなものなのですが、厳密にはまだ分かっていません。どうやら「脳に作用して痛みを感じにくくするのではないか?」というところまでは分かっているようです。大人だと300mg~400mgを一回に使用しますが、トラムセット配合錠には一回分に375mgと単独でも鎮痛作用が期待できる分量が入っています。
後者のトラマドールという成分も、実は「トラマール」という商品名で別に販売されています。かつては「がんによる痛み」にしか保険の適応がありませんでしたが、現在はそれ以外の痛みにも使うことが出来るようになりました。このトラマドールという成分は、モルヒネに代表される麻薬と同じような効き方で痛みを取ってくれます。麻薬と同じところに作用する薬を「オピオイド」と称します。何やら物騒な薬と思うかもしれませんが、モルヒネなどに比べてトラマドールは依存性が少ないので法規上の取り扱いは麻薬ではありません。さらに、トラマドールは抗うつ薬としての作用も併せ持っています。
抗うつ薬を飲むと痛みが改善されることがあります。「抗うつ薬自身に痛みを抑える効果がある?」のか「うつの状態が痛みを強くする→うつを改善すると痛みを感じにくくする?」のか、これまたどうしてなんだか良くわかってないんですが、痛みの緩和を目的として抗うつ薬を使うDrは多いと思います。トラマドールは一回25mg~75mgで使用しますが、トラムセット配合錠には一回分に37.5mgとやはり単独でも鎮痛作用が期待できる分量が入っているんです。
このように、トラムセット配合錠には2(~3)種の効き方が違う鎮痛効果を持っているお薬です。炎症を抑える作用ではないので、神経のキズが原因の痛み~痺れにも効果が期待できます。さらにさらに、がんではない痛みでも保険が使えるので、他の薬を使ってもなかなか状態が改善しない方は、Drに相談なさってみるといいかもしれません。(公費負担医療が使えるかどうかは名言できないとメーカーさんはおっしゃってましたので、主治医に確認してください。)
夢のようなお話ばかりしてきましたが、当然薬ですから副作用もあります。一番メジャーな副作用は「吐き気」です。これは、麻薬と似た作用が原因で起こるもので、飲み始めの一週間くらいを過ぎるとだんだんと吐き気もなくなるんだそうです。そのため、飲み始めの一週間くらいは吐き気を抑える薬とともに飲むことが推奨されています。眠気やめまいもかなり多くあるようですし、弱いながらも依存性もあります。これだけ期待させるようなことを書いてますが、薬というのはどうしても相性の問題がありますので「飲んでも私には全然効かない」ということもあるかもしれません。
リリカ
リリカ(成分名:プレガバリン)は本邦で2010年6月に帯状疱疹後の痛みを改善する薬として発売された薬ですが、同年10月に末梢性神経障害性疼痛の適応を取ったので、広く「痛み」について使うことができる薬となりました。
痛みにもいろいろと種類があります。一番解りやすいのは「ぶつけたら腫れたから痛い」という感じの「炎症性」の痛みでしょうか。たぶん皆さんが持ってらっしゃるであろうボルタレンとかロキソニンなどは消炎鎮痛剤と呼ばれる類の薬ですから、これに絶大な効果を発揮します。 が、我々OSLの人間が感じている痛みは炎症が引いた後にも続きます。なぜか?といえば神経が少々傷ついてしまっており、常に痛みのシグナルを発してしまうからなんです。これを「神経障害性」の痛みと言います。 リリカは、これに効く薬なのです。
どうやってか?(前置きがちょっと長いです) 体の中には様々なイオンが溶けています。そのイオンは自由に細胞へ出入りできるわけではなく、出し入れをするための特別な仕組みがいくつも存在します。その中の一つに「チャネル」というのがあります。リリカが作用するのはカルシウムイオンを細胞内に取り込む「カルシウムチャネル」です。実は神経の細胞の中にカルシウムのイオンがたくさん入っていると、痛みのシグナルを余計に発してしまうんです(要は、神経が敏感になっているようなイメージです)。リリカは、このカルシウムチャネルの働きを邪魔しまして、細胞の中にカルシウムイオンを取り込まないようにします。 すると、神経が少々鈍感になりますので、痛みを感じにくくなるという仕組みです。
これが、痛みを感じる神経だけに起こってくれればいいんですが、他の神経も鈍感にしてしまうことがありますので、リリカには宿命的に「眠気」という副作用が出てきてしまいます。ぼーっとずうっと眠いというのもあるようですが、これまで全く眠気を覚えていなかったのに、急にガクッと眠くなることもあります。ゆえに、交通事故を誘発する危険性があるため、この薬を飲んだら車などの運転はしないでください と必ずお願いすることになっています。
「リリカなんて効かないよ」という話も良く耳にします。リリカは通常は1回75mgを一日2回服用しますが、副作用が危ないからという理由でもっと少ない用量で飲んでいる人が多いため、こういう評価になってしまうのではないか?と思われます。患者会の中でもリリカについては賛否が分かれるところですが、「これまでしかめっ面で外出もおっくうになっていた方が、にこやかに活動するようになった」という絶大な効果を発揮したのを目にしたこともありますので、副作用さえコントロールできれば、良い薬なのではないか?と思われます。
リリカの副作用で気を付けなければならないものとして、「ふらつき」と「むくみ」もあります。「ふらつき」は、眠気と関係なく襲ってきます。患者さんから、一日中ふらふらしてダメだったという訴えを伺ったことがあります。ふらついて転んだりするとたいへんですから、リリカ服用中にふらつきを感じたら、すぐに主治医または薬剤師に相談するようにしてください。「むくみ」もリリカを中止する理由としては多いと思います。原因は完全には分かっていませんが、どうもリリカの成分が腎臓に悪影響を及ぼしてむくむのでは?と考えられているようですので、循環器系に問題のある方には注意して使われることが多いようです。
メチコバール
メチコバールは、古来より使われているビタミンB12製剤の先発品で、後発品も多数存在しています。ビタミンB12は、傷ついた神経を修復する作用が期待できますので、神経のしびれ、眼精疲労、耳鳴りやめまいなどに第一選択薬として使われることが多いと思います。効果が無いわけではないのですが、「効かない」とおっしゃる方が多い薬であるというのも事実です。なぜか?といえば、慢性的な症状に対して即効性がほぼ期待できない薬だからです。ビタミンB12製剤をお使いいただく場合には、根気強く飲んでいただいた上で週~月単位の症状の変化を比べるようにしてください。
が、似たような感じで、炎症を抑えるのではなく、神経系に働きかけることで痛みしびれに効果が期待できる薬はいくつか存在します。情報提供はいたしますが、その薬が皆さんの症状に合致しているものであるかは保証できません。また、その薬を処方するか否かは主治医の判断ですので、くれぐれも揉め事の種にならないようにご注意ください。