手術治療の概要

 脊柱靭帯骨化症(OSL)は、靭帯が厚みを増して神経を圧迫することで症状がでます。したがって、最も合理的なのは圧迫している部分を取り除くことですが、万が一脊髄本体や、脊髄からすぐに分岐している太い神経を傷つけてしまうと、ひどい後遺症が発生しかねません。OSLの手術は、かつて大学病院の教授クラスがほぼ一日がかりで取り掛かる大手術でありました。

 ただし、現在ではより安全に手術が行えるように、手術中の「脊髄機能監視システム」が導入されるようになりました。 このシステムでは、頭に電極を付けて電気を流しその刺激が脊髄を通って脚に伝わって筋肉が動くかどうかを確認します。脊髄に負担がかかるようなことをしてしまうとすぐにわかるため、脊髄損傷のリスクが格段に低くなりました。

 また、検査機器の進歩も、手術の安全性の向上に役立っています。以前は、レントゲン写真しかなかったわけですが、現在ではCTやMRIなどから得られた情報を3D情報に構築し直し、どのように手術を進めるのか?をナビゲートしてくれるシステムまで登場してきています。

 過去に比べれば、格段に安全性は向上しています。一度傷ついた神経は現在の医療では回復しません。(iPS細胞の治験が進めば事情は変わるかもしれませんが。) 一人の医師だけの見解では不安かもしれませんね。そういう場合は、ぜひセカンドオピニオンを求めていただければいいと思います。もし、二人以上の医師が「手術」を勧めるようでしたら、まさしく今が手術を受けるタイミングなんだと考えます。

頸椎OPLL手術の概要

 まず、一番手術例の多い頸椎OPLLの手術についてご説明いたします。

 喉のわきのあたりからアプローチし、骨化した後縦靭帯を椎体ごと取り除き、骨盤などから採取した自分の骨を移植して固定します。後縦靭帯を取り除きますので再発の恐れは一切なくなりますが、移植する骨をどこからか採取しなければならないため、術後に痛みを抱える場所が2ヶ所(以上)できてしまうのが難点です。

 脊柱管(脊髄が通っている空間)を、背中側から切り開いて広げる方法です。骨化部位を取り除くわけではないので再発の恐れはありますが、移植の骨を体の別のところからとってくる必要がないうえに、手術時間も比較的短くて済むため体の負担が軽いです。 圧迫がみられる部位だけを広げるのではなく、通常は縦3番~7番まで広げてしまいます。(一か所だけやると、神経がぐにゃっとなってしまい、かえってよくないことになりかねないのだそうです。)①椎弓の片側を切って反対側に括り付ける方法(片開き式)、②椎弓の尖っているところ(棘突起)を切って広げてつっかえ棒を咬ませる方法(棘突起縦割式)があります。どちらの方法も、術後の経過は変わらないとの研究結果が出ているそうです。

 いずれの方法にせよ、頸椎OPLLの手術方法については、ほぼ確立されてきているといえるのではないでしょうか。

胸椎OPLL手術の概要

 頸椎と胸椎とでは、世界が違うといわれています。 まず、前方からアプローチしようとすると、胸郭内にある心臓や肺をどかさなければなりませんので、整形外科的とは全くとらえることのできない次元の手術が求められます。 では、後方からアプローチすれば?と考えがちですが、大きな壁があります。

 脊椎は、緩やかなS字型を描いています。頸椎は後ろに反っている構造をしていますので、後ろ側に穴を広げてあげれば神経の圧迫を取り除くことができます。 ところが、胸椎は前に曲がっている構造になっているため、単に後ろ側を切り開いたとしても何の効果もありません。 ですから、骨化部位を取り除く努力が必要になってきます。

 後ろ側からアプローチ・椎弓を切除してルートを確保・脊髄を上に見ながら下の骨化部位を削る

 後ろの横側からアプローチ・椎弓の片側を切り開いてルートを確保・脊髄の脇から骨化部位を削る

 などといった方法があるようですが、どの方法を選択すべきか?は現在の厚生労働省の研究班で話題に上っている最中です。

 なお、腰椎については、腰椎脊柱管狭窄症と同様の扱いとなるため、あまり大きく問題にはされないそうです。

病院/学会などによる手術法解説